
落語をする話

特技は何ですかと訊かれて、「落語ができます」という人間は珍しい部類に入ると思います。
私はその珍しい方の輩だったりする…。
事の発端は、高校の芸術鑑賞会で浪曲師の国本武春氏の口演を見たこと。
何がどうとは言えないんですが、とにかく「なんかカッコイイなあ」と思いました。
もちろん落語と浪曲は違うんですが大きな括りでは似ているわけで、結果「大学に入ったら落語研究会に入ろう」という思いが生まれたわけです。
実はさらに遡れば、小学校の図書室で読んだ子供向けの落語本が、落語との最初の出会いでした。
当時はただ面白い話が書いてある本だと思っていたのですが、長じてそれが落語の噺だったと知りました。
また、当時は児童の間で怪談が流行っており、私もお化けが嫌いなくせに、怖いもの見たさが高じて怯えながらいろいろ読んでいました(笑) しかもただ読むだけでなく、休み時間に皆の前で朗読のようなことをしていたこともありました(変な子供)。
おそらく、この流れから落語に興味を持つに至ったものと思います。
≪落語ってなんだ≫
落語のことはよくわからない、という方が大半だと思いますので簡単に説明すると、落語というのは「着物を着て座布団の上に座って面白い話をする」芸のことです。
(それくらいは知ってるか(笑))
この時に使うのが扇子と手拭いだけとか(上方落語は見台という台も使う)、細かい決まりも色々ありますが、それはまあ置いといて。
有名なところでいうと「寿限無(じゅげむ)」とか「饅頭(まんじゅう)怖い」とか「時そば」などの噺(落語の”話”はこちらの字を使うことが多い)があります。
これらの噺は、基本的なテキストは決まっていますが、流派によって、また演者によって変わります。
まずは師匠のを見て憶え、独り立ちしたら自分のオリジナリティを加える、といったところ。
ほとんどは「古典落語」と呼ばれる昔から引き継がれてきた噺ですが、稀に落語家が自ら新しく創作することもあります。
噺の長さはピンキリで、短いものは10分程度、長いものだと40~50分のもあり、平均は15~20分といったところでしょうか。大作では、1時間を越すものも。
その間ずーっと一人で喋ってるのだから、スゴイ芸だと思います。
私も40分程度のものはやったことがありますが、やはり大変です。
まず、暗記するのが大変だし、何よりお客様を飽きさせないようにするのが大変。
噺自体が面白ければなんとかもつ場合もありますが、でもやはりそれだけでは難しい。
いわゆる“間”とか言い方とか言葉のチョイスとか、時には顔芸も挿んだりして、とにかく人を面白がらせる技術を総動員しなければならない。
さらに深く追求するなら、笑わせる以外の技術も要求されます。
落語は基本的には笑い話が多いですが、中には人情噺といわれる感動するストーリーや、怖がらせる怪談噺などもあります。
(そういった噺でも笑い所を挟むことは多いので、卓越した話術が要求される。)
ちなみに私は幽霊・物の怪の出る噺が好きなので、そういうのばかり演っていました(笑)
と、ここまで大変な点ばかりを挙げてきましたが、楽しみはもちろんあります。
何が魅力かと言えば、「お客様を笑わせた時の快感」。
もうこの一言に尽きますね。
自分が考えた、言った台詞で人が笑うというのは、掛け値なしに嬉しいものです。
皆さんも日常生活で、自分が言ったことで相手が面白がったり笑ってくれたりして、嬉しい気持ちになった覚えがあるのではないでしょうか。
世の中の“芸人”と呼ばれる人たちは全て、「人を楽しませること」を使命として日夜研鑽しているわけで、それってとても平和で素敵なことだなあと思ったりします。
(もちろん世の中の全ての職業には、何かしら意義があるものですが。)
笑うと免疫力が上がる、という研究結果もありますし。
“笑う”って、素晴らしいことですよね。
しかし、「人を笑わせる」…その魅力は諸刃の剣です。
なぜなら笑ってもらえないこともあるから!
そう、いわゆる「スベッた」というやつですね。
芸人は何よりこれを恐れます(笑)
笑わせることができた時のあの、人々に受け入れられた感覚とは正反対の、疎外感を一瞬にして感じます。それはもう身も凍るほどに。
基本的に、芸人的なことをやる人間は愛されたい願望がある(と私は思っている)ので、これほどツライことはないですね。
ですから、すべることがないように、一生懸命工夫を凝らし練習します。
人を笑わせるって、奥が深い…。
≪落語研究会≫
話を戻しますが、大学に無事合格して、どこのサークルに入るかドキドキしながら考えます。
そして、前述のようにジャズ研に見学に行き、入部を断念(苦笑)。
ずっとやっていた演劇はもちろん興味がありますから、見学に行きます。そして、学内に4つある劇団のうち、唯一ミュージカルをやっているサークルに入りました。
で、問題の落語研究会(以下落研)ですが、これがもう、変な集団。
あとでわかったことですが、各大学に落研というものはあれど、私の入学した筑波大学の落研は特に変人が多い(断言)。
まあとにかく当時の筑大落研では、入部希望の新入生に「100の質問」と言って、教室の前に立たせてとにかく質問を浴びせることをしまして。
その後、その質問の回答を元に、どの亭号に入れるか決めます。
亭号というのは、プロでいうところの「古今亭」「林家」「桂」などのことです。
どこの落研にもそれぞれ独特の亭号があり、大抵はその大学に関する単語を使ったり、駄洒落などになっています。
例:筑波亭 團吉(つくばてい・だんきち)、梅丹亭 呆無頭(めいたんてい・ほーむず)など
筑大落研には6つの亭号があり、その中のどこかに振り分けるわけです。
各亭号にそれぞれカラ―があり、「こいつはこの亭号だな」と独断と偏見で勝手に決められます。(でもハッキリした基準があるわけではないので、本当に、“なんとなく”決められる。)
そして、亭号に合わせた名前を決めます。それを高座名と呼び、落研で活動する時はその名前を使います。
ちなみに、筑大落研の高座名は下ネタが過半数を占める※ので、ここで紹介するのはやめておきます(笑) 気になる方は、「筑波大学落語研究会」HPをご覧ください。
※NHK系列で放映される「全日本学生落語選手権」で我が落研部員が決勝進出した際、高座名が放送コードに触れるのでは?と落研内で心配されました。結局大丈夫でしたが(笑)
なお、私の高座名は下ネタではありませんのでご安心ください(笑)
え、どんなのか気になる?じゃあまあ、隠すようなことでもないので書きますが(笑)
私は返還亭担保歩(かえしてい・たんぽぽ)という高座名でした。
この亭号は「返してほしそうなもの」の名前を付ける決まりです。
他に返還亭青春さんなどがおります。
私の場合は、「担保」を返してほしいわけなのですが、先輩(女性。そして美人)による、「(響きが)かわいいから“ぽ”をつけてたんぽぽにしよう」という鶴の一声により、決定。
なお、筑大落研部員はお互いを高座名で呼び合います。
気持ち悪いですね(笑) 私は嫌いじゃないですが(笑)
なので、私の師匠※などは、麗久舎駐車違反(れいきゅうしゃ・ちゅうしゃいはん)という高座名だった為、学外だろうがなんだろうが「駐車違反さん」と呼ばれていました。
※入る亭号が決まると、既にその亭号にいる先輩部員が自動的に師匠になります。
ちなみになぜ私の師匠なのに「返還亭」ではないのかというと、各亭号に亜号と呼ばれるものがあり、時々その亜号の方が使用されることがあるからです。この「麗久舎」はもちろん葬式に関連する名前を付けるのですが(例:麗久舎笑好 れいきゅうしゃ・しょうこう)、ネタが切れてきたことと、師匠のキャラクターが少々変わっていた為に、こんな名前が付けられた模様。
≪意外と多忙な落研≫
さて、ミュージカルサークルと兼部をすることになった私ですが、基本的に役者としてミュージカルに参加する期間は、毎日18~21時に稽古があります。
落研の方はというと、毎週月曜のミーティング以外は、決まったスケジュールはありません。
ですが、毎月1回落語会を開催するので、個人練習と稽古会はあります。
落語会には必ず出なければいけないわけでなく、「来月は誰出る?」という感じの立候補制なのですが、まあそれなりに出ないと上手くもならないので、結果、年に数回は出ることになります。
プラス、月に平均1~2回程、市井の団体などから余興の依頼があるので、さらに高座にあがる機会は増えます。
そんなわけで、なんだかんだでどちらにも参加していた私は、かなり多忙でした。
どうしてもやりくりしきれずどちらかに(もしくはどちらにも)迷惑をかけることもありましたが、なんとか両方辞めずに4年間やり通させていただきました。
しかも、3年次にはなんと会長になってしまい、大学内のサークル連合の会議出席の義務が発生したりしましたが、それより渉外係や会計係の方が何かとやることが多いので、ある意味ラクさせてもらいました。感謝。
同じ頃、ミュージカルサークルの団長も決めなければならなかったのですが、なんとここでも、私を推薦してくれる意見が。(まあ実を言うと、既にサークル連合の会議に出席が決まっている人間がいるのだから、兼ねてもらった方が一人分の時間を節約できるという理由が大きかったのだと思いますが。)
でも結局、「二つのサークルを兼ねて出席すると、このサークルが軽く見られるんじゃないか」という意見が勝ち、私は団長にはなりませんでした。
しかし、もしミュージカルサークルの方が先に決めていたら、もしかしたら両方「長」になっていたかもしれない…。両団体とも、こんな掛け持ち野郎をよく推薦してくれたなあ、と今でもありがたく思っております。
≪落語家の先輩≫
落語家への道は、落語家に弟子入りすることから始まります。
まず師匠の身の回りの世話をしながら勉強をする「前座」になり、認められれば「二つ目」に昇進します。この二つ目になると、一応独り立ちしたということになり、自分で落語会を開いたりできます。その活動の実績・実力を認められると、最高の肩書「真打ち」になります。
2013年、筑大落研のOBが一人、落語家として独り立ちしました。
「立川志のぽん」といいます。
立川志の輔の4番弟子。現在二つ目です。
私が入学した時には既にOBだったので、一緒にサークル活動をしたわけではないのですが、落語会を見に来てくださったり、現役生の呑み代を払ってくれたり、馬鹿話で一緒に盛り上がったり、何かとお世話になりました。
ちなみに現役時代の高座名は「麗久舎小砲棒(れいきゅうしゃ・こつつぼ)」。
なので、私は今でもこつつぼさんと呼ばせていただいてます(笑)
そんな縁で、近年、独演会のお手伝いなどをしております。
小柄で眼鏡で色白でハスキーボイスの、およそ落語家らしくない落語家ですが(笑)、自称オタクの個性溢れるマクラ(噺前の雑談)と、長い前座生活で培った話術でお楽しみいただけると思います。
落語家を呼びたいイベントがありましたら、是非お声かけください。
皆様、どうぞご贔屓に。
…以上、宣伝でした(笑)
≪最後に≫
と、長々知ったようなことを書いてきましたが、実は私、落語たいして上手くありません(笑)
ブランクもあるので、「今すぐやって!」という要望にはお応えできませんのであしからず…!



【上】 筑大落研名物『大喜利』。写真は学祭恒例OBの部。いい歳をした社会人がくだらない解答を真剣に考えてます。
【中】 私が現役の時の、学祭の立て看板。昔は大学の南側にある集客しやすい教室を使用していたのですが、近年は北の最果ての棟に追いやられ…。それでも結構お客さんが来てくださるのが不思議。
【下】 なんかの落語会後の記念写真。あまりこういうの撮らないので貴重な一枚。